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国立大学で開発!全身麻酔が必須の脊柱管狭窄症の手術に【局所麻酔で受けられる低負担の内視鏡手術】が登場

現在、国立徳島大学で整形外科教授を務める西良浩一先生は、脊椎手術の専門医の間で「神の手」と称される出沢明医師(帝京大学医学部附属溝口病院整形外科前教授)に師事し、これまで内視鏡手術を中心に2000例以上の脊椎手術を手掛けてきました。その中には、横浜ベイスターズ前監督の中畑清さんやアルピニストの野口健さん、円盤投げ・ハンマー投げ元日本代表の室伏由佳さん、ハンドボールの宮崎大輔選手のほか、五輪メダリストやプロ野球の主力選手など、多数のトップアスリートが含まれています。

整形外科医が選ぶ名医ランキングで第1位に選出されたこともある西良先生が、高齢の脊柱管狭窄症の患者さんにやさしい新手術の開発に成功しました。その新手術とは、全身麻酔が必須の脊柱管狭窄症の手術を、体への負担が少ない「局所麻酔」で行うという画期的なもの。その詳細をお聞きしました。

「手術不適応」の患者さんに新たな選択肢

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腰部脊柱管狭窄症の患者さんの中には、主治医に「痛くてたまらないから手術をしてほしい」と訴えても、「高齢だから」「循環器疾患があるから」「呼吸器疾患があるから」などの理由で、手術を受けられない人がいます。脊柱管狭窄症の手術には、原則として全身麻酔が必要で、手術後に認知症のような症状が出る術後せん妄や術後肺炎を招くリスクもあり、体力的に全身麻酔に耐えられないと判断されるからです。

事実、東京都老人医療センターによれば、65歳以上の高齢者は、手術中・手術後の合併症として、心筋梗塞に5倍、重度不整脈に10倍、肺塞栓に7倍、脳血管障害に40倍なりやすいと報告されています。最近は麻酔技術が発達してきたのでいたずらに怖がる必要はありませんが、重度の高血圧や糖尿病などの循環器疾患がある人や、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの肺病変がある人、体力が著しく低下している人については、手術の可否をさらに慎重に見極める必要があります。

いずれにせよ、手術に不適応となった患者さんは、これまでプレガバリン(神経障害性疼痛治療薬)やオピオイド薬(麻薬性鎮痛薬)を駆使して、痛みを抑える治療を受けるしかありませんでした。しかし、こうした薬は副作用も強く、しつこい痛みに耐えながら薬の副作用に苦しむ自分の状態を「生き地獄」と評する患者さんもいました。

局所麻酔で行える内視鏡手術を開発

そうして苦しむ患者さんを一人でも減らしたいという思いで、私たちは新たな手術法の開発に成功しました。

それは、脊柱管狭窄症の手術を全身麻酔でなく「局所麻酔」で行う新内視鏡手術「PEVF」(経皮的内視鏡下腹側椎間関節切除術)です。今回はその画期的な手術法についてくわしく紹介しましょう。

脊柱管狭窄症の手術でまず選択されるのは、部分椎弓切除術(開窓術ともいう)です。腰椎(背骨の腰の部分)で神経を圧迫して痛みを起こしている骨や靱帯(骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織)を削り取り、神経の圧迫を除く手術法(除圧術という)です。

かつては背中の皮膚を大きく切り開いて行っていましたが、20年ほど前から内視鏡で手術ができるようになりました。今主流となっている脊柱管狭窄症の内視鏡手術「MEL」(内視鏡下椎弓切除術)では、患者さんの背中の中央部の皮膚を切開し、内視鏡や手術器具を通す直径16㍉の管(円筒形レトラクター)をほぼ垂直に患部に差し込んで行われます。モニターで脊柱管の内部を確認しながら、神経を圧迫していた骨や靱帯をドリルや鉗子で取り除くのです。

それに対して、私が開発したPEVFでは、背骨より外側のわき腹に近い部分の皮膚を切開し、直径約8㍉の管を斜め後方から患部に差し込んで、神経を圧迫している骨や靱帯を取り除いていきます(下図参照)。

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患部までの距離が遠くなるため手術自体の難易度は上がるものの、内視鏡やドリルに小型の器具を使えるので、手術に伴う傷が小さく、痛みも少ないため、局所麻酔での手術が可能になったのです。

術後経過は90%以上が良好で即日歩ける

この新内視鏡手術PEVFは、腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術「PED」(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)を脊柱管狭窄症の手術に応用したものです。7年にわたって技術改良を重ね、ご遺体で安全性や実現の可否を慎重に見極めたのち、2017年2月に1例めの手術に成功しました。

PEVFは、2018年12月までに約40例に実施。90%以上の症例で術後経過は良好と判定でき、不変例・改善不良例は腰椎のすべりや側弯がもともと強い人など10%未満にとどまりました。ほぼすべての患者さんが手術の結果に満足しており、どの方も手術直後から自分の足でスタスタと歩いて数日のうちに退院できているのです。

早ければ手術の翌日に退院できる

PEVFの手術の難易度は最高レベルで、執刀には高精度の技術とスピードと正確性が求められますが、患者さんにもたらされるメリットは計り知れません。

まず、高齢であることや循環器疾患などを理由に全身麻酔が不適応とされ手術をあきらめていた人でも、手術で治せる可能性が高まります。局所麻酔ならどんなに高齢の方でも低負担で手術を受けることができるからです。

また、全身麻酔による術後合併症の危険も大幅に減らせます。全身麻酔の場合は、麻酔から完全に覚めて起き上がるまでには相応の時間がかかりますが、局所麻酔であれば手術直後からスッと起き上がって歩くことができるのです。

さらに、手術中は患者さんに意識があって話もできるため、手術器具が神経に触れていないかを確認しながら、骨や靱帯の切除を進めることができます。万が一、手術器具が神経に触れると患者さんは痛みを訴えるので、手術によって大事な神経を傷める危険が減らせるのです。

そのほか、全身麻酔がかかっている間は、呼吸を助ける管をのどに通す「気管内挿管」が必要ですが、局所麻酔であればその必要がありません。

もちろん入院期間も短く、全身麻酔の場合は1週間~10日の入院を要するのに対し、局所麻酔の場合は早ければ手術の翌日に退院できます。

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健康保険も適用でき費用は従来と同じ

反面、患者さん側にデメリットはほとんどありません。強いてあげれば、医師に極めて高度な技術が求められることや実施する医療機関がまだ少ないことでしょう。

手術の適応は、現在のところ、狭窄部位が1ヵ所に限局している神経根型のみに限られ、狭窄が何ヵ所にも及ぶ場合や馬尾型・混合型には適しません。

また、手術には少量の出血を伴うため、血液をサラサラにする抗凝固薬を手術の1週間ほど前から中止できる人しか手術を受けられません。

治療費は従来の手術と変わらず、健康保険も高額療養費制度も適用できます。

ただ、局所麻酔下で脊柱管狭窄症の内視鏡手術ができる医師は、日本国内に3名しかいません(表参照)。また、私の執刀を希望しても、今のところかなりお待ちいただく状況となっています。

そのため、徳島大学では目下、PEVFの普及を進めるために脊椎専門医を対象とした研修を行っており、20大学以上が参加しているので、あと数年たてば実施できる医師が増えてくるでしょう。

 将来的には、PEVFの適用を馬尾型や混合型にも広げるとともに、椎骨をネジで留める固定術も局所麻酔下の内視鏡手術で行いたいと考えています。

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※PEVFはPercutaneous Endoscopic Ventral Facetectomy
(経皮的内視鏡下腹側椎間関節切除術)の略称です。

・記事の内容は安全性に配慮して紹介していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して専門医にご相談ください。
・医療機関にて適切な診断・治療を受けたうえで、セルフケアの一助となる参考情報として、ご自身の体調に応じてお役立てください。
・本サイトの記事は、医師や専門家の意見や見解であり、効果効能を保証するものでも、特定の治療法・ケア法だけを推奨するものでもありません。


●脊柱管狭窄症をいちから知りたい方は、ぜひ下の記事をご覧ください。

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